介護職という選択

介護職への就職を選択する方へ。現役デイサービス施設長からの情報提供

認知症による問題行動|どうして?どうする?

認知症の問題行動 認知症については介護職として避けて通れぬ症状。真剣に向き合う必要があります。お客様には多かれ少なかれ認知症を抱える方が多いです。いや、逆ですね。お客様に認知症が多いのではなく認知症の方がお客様になる傾向があります。生活上の問題のため介護施設を利用されるのですが認知症は問題を大きくしたり、問題その物だったりします。また生活に大きく影響をしていない軽度であったとしても予防的に施設を利用される場合もあります(特に当方のような通所施設の場合)。
いずれにしても介護職にとって認知症による問題行動と向き合う事は避けて通れないのです。注意すべきは認知症は病気によって引き起こされたり自然な老化現象の一つです。認知症そのものが問題=悪い事ではありません。認知症を発症した方の行動がそれ以外の方への迷惑になる事によって問題行動となるのです。

認知症の症状

一言で言うと記憶障害です。物忘れが極端に強くなった状態です。新しい方の記憶から抜け落ちていく傾向があります。一時的に記憶しておく所、短期記憶と言いますがここがやられます。
まだら認知と言うものもあります。一律に記憶が衰えるのではないのです。記憶力以外の精神力の衰え、体力低下とも一致しないのです。記憶力の衰えがあるのに判断力がしっかりしている、歩いておられる姿から認知症と思えない事も起きます。

認知症の症状についてはこちら→認知症、その妙な症状

認知症の問題行動

穏やかに年を重ねる方もあります。しかし問題行動を起こす方はどこかアンバランスさがみられると私は思います。体の衰えとそれ相応な記憶力の衰えがある方は穏やかに見えます。ところが記憶力が衰えたのに体力がさほど衰えない方は問題行動を起こしやすいように思っています。特殊なケースになるのでここでは取り上げませんが若年性認知症、体力が十分あるのに物忘れがひどく進んだ方は乱暴になる傾向が見られます。私が見た限り。

物盗られ妄想

短期記憶が抜け落ちるとさっきしていたことが分からなくなります。机の上の物を押し入れにしまったとします。そこを忘れると物がワープしたように見えます。まあいいやで済ましてしまうおおらかな方ならいいのですが几帳面な方はこの不可解な現象をびっくりしても納得する事ができません。物が勝手に移動するはずがない、第三者が介入したに違いないと考えるのは合理的です。

誰かに相談しようと言うのは短期記憶ではありません。知恵ですからしっかり残ります。見た目がそれ風になっていないならご親切なご近所さんは警察の介入をアドバイスされるかもしれません。そう言う人だとわかるまで騒ぎは大きくなります。

また、その犯人を同居の家族と思うのも自然な発想でしょう。ご家族もこの現象が理解できなければ、いえ理解できたとしても家族関係の悪化は避けられません。

徘徊(はいかい)

地理的な位置を把握できなくなる事を失見当(しっけんとう)または見当失(けんとうしつ)と言います。そうなりますと今どこにいるかがわからなくなります。出かけている時に道に迷う事ではありません。今ここにいるいきさつを忘れ、知らない所にいきなり放り込まれたように思ってしまいます。周りに見覚えがないなら見知った風景を探すのは当然です。傍から見るとやみくもに歩いているように見えます。目的地に近付いているのか遠ざかっているのかの判断もできません。とんでもない方向に向いているのが普通です。
体力に余裕がなければ早々にギブアップですがそうでなければ、どうして行けたのかと言う遠い所で発見されたりします。

自分の家にいるのに帰りたがったり、故郷に戻りたいとか、仕事に行かねば等々移動を始める理由は様々ですが、それは周りの方から見ると理不尽な理由です。

弄便(ろうべん)

弄便とは、排泄物をもてあそぶと言う意味になります。さすがに通所介護のお客様で見かける事はないです。かなりの認知症の進行があって起きます。
きっかけは便失禁から。次にその状態がそのままになっている時に起きます。下半身が不快になります。何が起きているんだろう、それを取り除きたいと思うのは合理的な発想です。触ってみるのも自然。おむつを外してみるのも自然な行動です。その時に手に付いてしまいました。これをなんとかしたいと思って何かにこすりつけてこそぎ落したくなるのも自然な行動です。こうして床、畳、ベッド、家具、壁がひどい事になります。

ここまでの問題行動はさすがの私でも体験した事はありませんがこの状態になっているのを発見したご家族の衝撃は想像を超えます。後始末をしない訳には行きませんがどうしたらいいのかは途方に暮れるのではないかと。

問題行動の共通点

不安からくる興奮

問題行動は人それぞれで一つとして同じケースはありません。が、共通する所は恐怖感、不安、不快感です。誰かが私の持ち物をどこかに移動したと思いこんだり、ここがどこかわからない時、下着に異物感があって気持ち悪い時には当然そうなります。その時の感情は最近身に付いたものではありません。生きて行くために必要な仕組みから来ていますのでなくなる事がありません。その感情から逃れたい、なんとかしなければと思うのは感情と言うよりもむしろ衝動になります。

こんな状態になったら一種の興奮状態になります。若い方と違ってエネルギーも低下していますから一般的な興奮状態のイメージではありませんが。誰もあなたの着古した衣服を盗まない、こここそがあなたの居場所です、その行為は不潔ですなどと言う普通の言葉は説得力に乏しいのです。

この状態になった方、私見ですがなんだか遠い目になっているような、目がすわっているような、そんな感じに思います。

性格によって現れ方は変わる

短期記憶が失われ、物をしまった場所が分からなくなる方が必ず盗まれたと言うとは限りません。自分の居場所がどこかわからなくなっても穏やかな方もいます。
弄便は長時間放置される所で起きますし、かなりの認知の進みがないと起きませんので別格とします。

物盗られ妄想を持ってしまう方は几帳面な性格とともに現れるように思います。几帳面と言っても整理整頓が得意と言うよりは病的潔癖症に近いような気がします。若い頃からそうだったのではなく、老化によって性格が変化してしまったように見受けられます。良い意味でルーズな方は「いつの間にか自分が動かしたんだろう。あはは」であまり気にされません。

徘徊は外交的で出かけるのが好きな方に起きる傾向があるとされています。こちらも病的に居てもたってもいられない位に性格が極端になった時に手がつけられない徘徊となります。

実は自然な行動

物盗られ妄想、徘徊、弄便はどうしてそうなるか理解を超えます。ところがその行動は認知症を持つ方の身になって考えると当然の行動なのがわかります。すでにその思考回路は書いた通りです。

問題行動が起きる経過を理解できれば、自然な行動だと理解することができます。好きでやっているのではなく、不安、苦しみ、心の痛み、不快感から逃れようとしての行動になっているのです。理解だけで問題行動をなくすことはできませんが、落ち着かない等の不安感を低減する助けになります。

どう接するべきか?

やってはいけない事

否定がよろしくない事になります。特に頭ごなし、強い口調での叱責は厳禁です。行動を我慢させる事はできるかもしれません。でも本人にとっては極めて合理的な行動です。行動の根本が解決される訳ではありません。すぐに忘れる所が問題の出発点。叱られた事もあっという間に忘却の彼方。問題行動の再開はすぐに。

さらに困った事があります。叱られた内容は認知症の方にとっては理不尽な事。いわれのない事で怒られる訳ですから不愉快な感情が生まれます。悲しかったり腹立たしかったり。さて認知症は短期記憶の喪失ですが失われるのは記憶だけ。感情も消える訳ではありません。怒られた事は忘れてもその時の感情は残っています。不安、興奮状態にある所、そこにマイナスの感情が合わさるのですからますます混乱される事になります。

もう一つ避けたい事は急激な環境の変化です。短期記憶が抜けますからその状態に至った理由は忘れて、変化に納得できません。急激かどうかは認知症の方にとっての事です。若い方にとってなんでもない変化であっても認知症の程度によっては大ショックかもしれません。

やってはいけない事がなぜ起きる

頭ごなしの否定は良くありませんと知識としてはシンプルです。難しい理論がある訳でもないですから。ところがそれを理解して実際に行動に移すのは簡単ではありません。特に家族になるとあの人がそんな状態になってしまったと認める所は非常に抵抗があります。そんな事になって欲しくない感情が先に立ちますから。家族から見ると認知症による問題行動は腹立たしいのもありますが悲しい、情けない、しっかりしてほしいと感情が先に立ちます。さらにわかって欲しい、家族の迷惑も考えてほしいなんて所が加わると、認知症が正しく理解できなくなり、問題行動はご本人にとって合理的な行動だって所は置いてしまって、ついついきびしい対応になってしまうのです。

どう接するべきか

まずは問題行動を起こしている人の考え方を理解する必要があります。独自の世界観と言ってもいいかもしれません。その人の立場になって困っている状態に至った経緯を想像して原因と問題になっている行動を結ぶ事が理解の第一歩です。

認知症は短期記憶の喪失であると度々書いているのですがそれ以外の所の低下と連動しません。つまり表情を読んだり、相手の気持ちをわかったりする能力はさほど低下していない事が多いです。自分の立場になって困っている状態に至る経緯を理解しようとしてくれている所は伝わるのです。これは信頼関係を作る第一歩となります。

とは言ってもいくら理解したとは言え、一緒になって混乱を助長してはいけません。盗られたと言っているのだからと一緒に警察に行くとか、電車でないと行けない所に行きたいのだからと旅行をする訳には行きません。

説得は無意味と思った方がよろしいです。理屈が通らない状態になっておられるのはもちろんですが、説得の効果を受け入れる事ができなくなっている場合があります。A=B、B=C、だからA=Cなんて効果的な説得方法もありますがB=Cの話をしている間にAの話は忘れられているかもしれません。

話をそらしてごまかす位が現実的な方法かもしれません。消極的ですが。根本的な解決は失われた記憶力を戻す事ですが最新の医療をもってしてもできる事ではありません。仮に説得に成功したとしても一時的な物で時間を置いて何度でも繰り返されます。あまりエネルギーを使う事は得策ではありません。

まずは問題行動を理解して同じ世界に身を置く。そこで信頼を得る。話を聞いてもらえる状態にして話題を変えてみる。笑わせるなんて事は意外に効果的です。不安感、焦燥感、恐怖感を気分転換できますので。その上で「まあ続きは明日にしましょう」とか「とりあえずご飯にしませんか」と違った所に興味を移すことができればよろしいかと。良い意味でのごまかしがベストな方法となります。次に同じ事が起きた時に備えてエネルギーを温存して置く位の気構えの方が良いと思われます。

”かんり じんじ”が思う認知症の問題行動

かんり じんじ

介護職、介護施設としては何ができるでしょうか。良い意味でお客様とは他人です。血がつながっていると感情的に許せない事も仕事として冷静に接する事ができます。お客様にとっても多少の遠慮をされますのが冷静さを生み出す事になります。これがお客様にとっての安心感につながります。通所介護の施設に通う事でしたら家族と距離を置く事で休憩ができます。余裕ができればいらいらもマシになって感情的な対応を抑える事ができます。利用者も安定した気分で帰って来られますから問題行動が起きにくくなります。

入所型の施設でしたらさらに距離を置く事ができます。こじれてしまった家族との関係の修復につながるかもしれません。

介護職員は複数での対応ができます。問題行動に接するのも勤務時間中だけです。お客様と血がつながっていないので冷静な対応がしやすい上に時間が限られていますから複数の方の問題行動に接する事があるにしても24時間対応のご家族よりも冷静な対応は容易です。ご家族でしたら出かける必要もあり、認知症の方の一人の時間ができてしまいますが、施設なら必ず誰かいます。またイベントもご家庭より頻繁に行われますから気分転換の機会も多いのです。

ご家族の一言。「どうして新しいことから忘れるんでしょうかね」。質問ではないです。気持ちのやり場がなく、嘆いておられるのです。「大事な事、楽しい思い出がたくさん詰まっているので新しい事を受け入れる隙間がないんでしょうかね」なんて答える事もあります。

 - 介護職に知っておいてほしい事